公契約・指定管理者制度の現状と課題

近年の行財政改革・構造改革の進展による「官から民へ」の流れの中で、建設分野にとどまらず、行政中心で供給されてきた公共サービス分野においても、公契約を通じた民間企業等の活用が積極的に進められています。
また、平成15年9月に施行された改正地方自治法により、新たに「指定管理者制度」が設けられ、地方自治体の業務を民間企業やNPOが受託する例が増えています。
地方自治体が指定管理者制度を導入した目的には、民間企業の持つノウハウを活用することによる住民サービスの向上と経費削減の2つが主に上げられており、その点については一定の成果を挙げているといえます。

公共事業の民間委託の現状

  • 建築業に限らず、公契約を通じてあらゆる公共事業の民間委託が急増
  • 指定管理者制度のスタート ※平成15年6月に地方自治法改正(同年9月施工)

民間企業やNPOが公共事業を委託したことにより…

  • 民間企業においては、競争入札で落札するためにコストの削減が求められる
  • 国民(住民)においては、公共サービスの質の向上を期待している

しかし一方で、業務委託における競争入札が繰り返されたことにより、民間企業では落札コストを下げるため、委託業務に従事する労働者の人件費を低く抑えるようになり、その結果、低賃金、長時間労働など業務に携わる労働者の労働条件の低下を招いたり、労働者を社会保険に加入させないなどの法令違反が生じるなど、問題が顕在化し始めています。
地方自治体においては財政難のなか、公共工事以外の業務委託について、入札の基準とされる予定価格を前年の落札額とするケースが多く、これを下回る額の入札が繰り返されることが、労働条件の急速な悪化を引き起こしているとみられています。一例として、市からの委託によって清掃業に従事している労働者が、月26日フルタイムで働いているにもかかわらず、支給された賃金が生活保護基準に達せず、生活保護申請が認められたケースがあります。

民間委託の課題

  1. Problem01コスト削減に起因する
    「労働条件の低下」・「法令違反」

    落札するために入札金額を低く抑えることにより、低賃金、長時間労働など、民間事業者で働く従業員の「労働条件の低下」を招いたり、保険料負担を免れるため従業員を社会保険に加入させないなどの「法令違反」が生じるケースが見受けられ、問題となっています。

  2. Problem02公共事業の質の低下

    低賃金、長時間労働・社会保険未加入など、不適正・違法な労働条件では、従業員も安心していきいきと働くことができず、「公共のために良い仕事をする」という意識も持ちにくくなり、業務全体の効率等も下がっていきます。
    よって、適正な公共事業の実施や、良質な公共サービスの提供が困難となります。

委託者である国・地方自治体の責任として、措置を講じることが必要といえます。

こうしたなかで、既に千葉県野田市や神奈川県川崎市・相模原市では公契約条例が制定されているほか、一部の地方自治体では落札者決定の要件について、金額以外の要素を含めた総合評価方式を採用するなどの措置を講じはじめています。
また、民間委託の現状と課題に関しては、法制定や関連団体の意見表明が行われており、全国的に問題意識が高まっているなか、国・地方自治体の責任ある対応が求められています。

「公共サービス基本法」(平成21年5月20日法律第40号)

第11条 国及び地方公共団体は、安全かつ良質な公共サービスが適正かつ確実に実施されるようにするため、公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

総務省自治行政局長通知「指定管理者制度の運用について」
(平成22年12月28日総行経第38号)

6指定管理者が労働法令を遵守することは当然であり、指定管理者の選定にあたっても、指定管理者において労働法令の遵守や雇用・労働条件への適切な配慮がなされるよう、留意すること。

ILO第94号条約「公契約における労働条項に関する条約」

  1. ①人件費が公契約に入札する企業間で競争の材料にされている現状を一掃するため、すべての入札者に最低限、現地で定められている特定の基準を守ることを義務づける
  2. ②公契約によって、賃金や労働条件に下方圧力がかかることのないよう、公契約に基準条項を確実に盛り込ませる旨を目的としている。
  • 「公契約法・公契約条例の制定を求める意見書」(平成23年4月14日 日本弁護士連合会)
  • 「公契約に関する連合見解と当面の取り組み」等(日本労働組合総連合会)

しかし、国・地方自治体が抱える実際の課題は、その先にあります。仮に公契約法・公契約条例を制定し、国・地方自治体から業務を受託しようとする民間事業者に、その雇用する労働者の適正な賃金・労働時間等の労働条件を確保するよう求めても、果たして実際の労働条件が、応札時に民間事業者から提出された企画書等によって示されたとおりになっているか、更には業務が行われる期間を通じて常に実行されているかは、事業実施中あるいは事業終了後に、実際にその民間事業者に立ち入り、賃金や労働時間等を点検しなければ確認することができないからです。
この問題に具体的にどう対応するかは、全国の自治体の担当者にとっての悩みになっています。自治体の担当者の多くは複雑な行政事務のスペシャリストではありますが、民間企業に適用される労働基準法や労働社会保険諸法令等に精通しているケースは稀であり、どのようにすれば民間事業者に雇用される労働者の労働条件が確保されているか否かを確認するノウハウを有していないのが一般的といえます。一方で、これを厚生労働省の出先機関である労働基準監督署の労働基準監督官に依頼するには、対応する人員面で現実的ではなく、また、労働条件の確保は、労働基準法の遵守状況はさることながら、労働保険(労災保険、雇用保険)、社会保険(健康保険、年金、介護保険)を含む労働社会保険諸法令全般の遵守状況、更には労務管理の視点からも問題がないかを判断すべきものであり、実務的な問題が多々あります。

東京都板橋区のケース

他方、すでに動き出している地方自治体もあります。東京都板橋区では、平成20年8月に「指定管理者制度導入施設のモニタリング・評価に関する基本方針」を発表し、指定管理者制度導入施設について、効率的な運営やサービス水準の維持・向上、利用者の安全対策など、当初の導入目的にのっとり適切に運営されているかどうかをモニタリングし、客観的に評価・検証を行う取り組みを進めています。この板橋区の方針には、「財務状況及び労働条件の点検」の項目が掲げられ、モニタリングの評価を行う評価委員会を補完するため、財務状況及び労働条件の点検を外部専門家に委託することが盛られています。具体的には、財務状況については公認会計士、税理士、中小企業診断士のいずれかの資格を有するものに、労働条件については社労士の資格を有するものに委託することが定められています。こうしたモニタリングは、その後、東京都の他の自治体(千代田区、北区、新宿区など)でも導入され、いずれのケースも社労士による労働条件の点検が採用されています。